政治家・上田清司知事の琴線に触れるかどうか
12月11日の第8回市部会で、コンクリート遊歩道工事再確認の決定と当会の提案に対する検討がどのように行われたのか、いつ連絡が来るかと待っていたが、28日に電話で連絡がきました。お蔵淵から高岡橋間の一部を残すべきというリンクス高麗川の要望を受け入れ、他のコンクリート遊歩道工事は既定通り進める、というものです。
それを受けて、再度、知事に要望を出すことにしました。
高麗川まるごと再生プロジェクトの事業の具体的な立案・変更を行っているところが市部会であることは、第7回までの議事録で明らかなのですが、第8回の決定の様子からして、決定の主導は市であることがはっきりしました。
これまでも指摘してきましたが、県の役割は、市立案の事業にアドバイスを行い予算を付けるというものです。こういう仕組みでの最高執行責任者である県知事の役割は、どのように発揮されるのか関心を持って推移をみてきました。
一部区域の問題を提起した団体(リンクス高麗川)の市部会参加の要望を受け入れ、これで市民の意見を聞いたとしてコンクリート遊歩道の既定方針が再確認され着工されることになったのですが、この最終段階で知事に訴えることは、知事の政治家としての見識と決断に賭けるしかない。
この段階ではもう無理、反応するはずがない、というのが、まず普通の考えでしょう。しかし知事の決断を促す環境が少しでもあれば、それをトリガー(引き金)と利用するのは、何の権力を持たず言葉と論理及び怒りしか頼るものがない市民としては当然のことだと思います。
思いつく環境は3つあります。
一番目は、31日に放映されるNHK「さわやか自然百景」。自然を撮影することにかけては、BBCと並んで世界的技術とノウハウを誇るNHKのことです。素晴らしい珠玉の場面が見られるはずです。これを見て知事は何を思うか。政治家としての心の痛みを、行政家としての倫理から思う所はあるか。
二番目は、知事の政治姿勢です。自ら決めた多選自粛条例に違反してまで出馬、当選したことに対する批判が続いています。議会においては、自民党会派からの逆風を受け、知事としての主導を発揮できないと言うことが言われています。それに対する知事の反論と今後の方針として、開かれた県政を推進し、「政策に係る広聴機能の充実」「民から政策提言を募集」等で「県庁の壁を取り払う」とし、議会と並ぶチャネルの形成を試みる、と定例の記者会見で述べています。
県会議長を歴任し自民党県議団の現団長をつとめる日高市選出の県議が、日高市策定による市部会に出席し(他地域ではあり得ないこと)、市当局がコンクリート遊歩道案を提出した際(県議の市部会出席はこの提案時のみ)に「素晴らしい計画」と推進を明言しました。さらに市長も議会で計画推進を明言しています。
こういう政治状況の意味については私たちも推し量るところはありますが、知事の判断に届くのかどうか、僅かな可能性に期待したい。
三番目は、平成27年7月17日に、安倍首相が「新国立競技場建設白紙撤回」に関する記者会見を行い、英断として報道され、知事も定例記者会見で白紙撤回に賛意を表明したことです。
これら3つとも、かすかな望みをかける私たちが都合良く解釈した条件にすぎないが、政治家はいつ、どこで、どんな決断を下すか分からないし、それができる存在です。一介の市民の訴えが、政治家・上田清司知事の琴線にどう触れるかどうかは全く分からないが、「もしかしたら晴天の霹靂?」と楽天的にいくことにしたい。
清流文化都市にふさわしい遊歩道を
谷ケ崎房之助
この度日高市の広報ひだかで初めて、「高麗川のまるごと再生プロジェクト」事業による高麗川河川敷へのコンクリート遊歩道工事の内容が公表されました。そして我々「高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」、「リンクス高麗川」、「保育の会」などが疑問や再考案を出しているにも関わらず、年明けからの工事着工を表明しています。
川の再生事業については8年も前から進められ、コンクリート遊歩道事業は3年も前に市部会で決定していながら、初めて市民に公表し、業者もすでに選定しており、すぐさま着工という進め方は、情報公開、説明責任が強調される時代にあって、驚きの一語です。そのような進め方はまさに計画内容にも反映していると思われます。
第一に「高麗川のまるごと再生」という計画の大きな目的からすると、昔の高麗川のようにヤマセミ、カワセミ、魚やドジョウ、トンボやホタルなどの生き物がにぎわい、それを支える清流を再生する計画と期待します。
高麗川は写真家・島田忠氏が、カワセミの写真で全国的に有名にしてくれた美しい清流です。私も32年前、日高に移住して、野鳥の会の息子と巾着田の崖でヤマセミを見ました。感動しました。残念ながらヤマセミは、今はお目にかかれません。
それでもグラウンドワーク三島の川の専門家3人による学習会によると、高麗川は今でも豊かな自然が残っている貴重な川と評価されています。またこの1月31日、NHKの「さわやか自然百景」という番組で高麗川が選ばれ、紹介される予定です。このような貴重な高麗川に手を入れる場合、慎重でなければなりません。
ところが計画は重機を川に入れ、水を切り、川を掘り、2メートル幅のコンクリート遊歩道を造るという計画です。それも河川敷の中にです。このドライ化工法による工事そのものによる環境破壊は大きいし、河川敷に構築されるコンクリート遊歩道は、美しい高麗川の景観を壊し、生き物の多様性を壊すことになります。期待した目的とは、真逆です。それに「水質を再生」することが全く考えられていません。むしろ目的からすれば水質の向上が最も重要視されるべきかもしれません。
最近の水質調査によると大腸菌が増加しているとのことです。高麗川へ流れこむ沢山の支流の水質や、家庭からの下水の管理が大事かと思います。まるごと再生ですから、下水道完備、合併浄化槽の充実、川沿いのトイレの充実なども考慮されるべきかと思います。
第二に、日高市は「ふれあい清流文化都市」を市民憲章として、総合計画基本構想で「水と緑の豊かな自然環境の保全」「貴重な歴史資源、景観の保全」を掲げています。河川敷内のコンクリート遊歩道は、まったく逆でないでしょうか。水と緑の豊かな自然環境を壊し、景観を損ねる計画です。市が観光の振興を考えるのも一つの重要な役割です。しかし「ふれあい清流文化都市としての観光事業」でなければ、市民憲章は死んでしまいます。遊歩道を造るにしてもこの市民憲章を貫いた遊歩道を創造することが、日高市の誇りになるはずです。それは一つの文化の創造ですから、知恵を出し合い、辛抱強くまとめて時間のかかる作業かと思います。
今までリンクス高麗川の方々が、何回も調査をして貴重な情報を提供してくれています。また先ほど述べたグラウンドワーク三島の先生方が遊歩道についていろいろなアドバイスしてくれています。また埼玉河川連合の方々の経験談などをいただいております。それらの知見・情報を考慮して、高麗川らしい「コンクリート遊歩道を必用としない川の再生」案を、我々「高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」が提案しています。それが知事に提出した要望書の中の具体案です。
最後に日高市が清流文化都市として、全国に誇れる先駆的な遊歩道を創造するために、コンクリート遊歩道の着工を延期し、多くの市民の意見を結集することを願うものです。
コンクリート遊歩道の工事再開、市が決定
2016年、平成28年となりました。高麗川清流ブログの最初の原稿です。
ついに市が、コンクリート遊歩道工事のゴーサインを出しました。12月28付けで市のHPに、高麗川まるごと再生プロジェクトの内容を公表し広報ひだかには、天神橋から新井橋までの3箇所のコンクリート遊歩道建設が「県の取組」として掲載されました。
HPでは、高麗川まるごと再生プロジェクトについて、こう説明しています。
「市では、関東有数の水質を誇る高麗川の清流があることから、平成7年に「ふれあい清流文化都市」を宣言し、市の特性を生かした地域の活性化に取り組んでいます。なかでも巾着田は、年間約60万人のお客さまが散策や川遊びに利用されるほか、バーベキューなどを楽しむ場ともなっており、特に曼珠沙華群生地は、全国的にも有名な景勝地となっています。そのような特性を生かしていくために、プロジェクトの整備方針を「たくさんの魚影を眺めることができる高麗川とのふれあい」とし、埼玉県、日高市、地域住民の代表や地域活動団体等の関係者との協働による「日高市部会」を立ち上げ、話し合いを進め、高麗川の再生に取り組んでいます」
また、こうも書かれています。
この事業について、「これからの市の取り組み」「これからの埼玉県の取り組み」と分けて書き、コンクリート遊歩道は、「これからの埼玉県の取り組み」としています。
コンクリート遊歩道建設の企画・提案は日高市が行い、埼玉県はその計画にお金をつけ、工事を行うという仕組みです。したがって、コンクリート遊歩道設置の推進と責任の大きな部分を日高市が背負っています。
市広報のこれらの説明では、反対を無視し市民の意見も聞かずに、しゃにむに、何が何でも、コンクリート遊歩道を建設する、という市の姿勢・方針を理解できません。取って付けた理由をいくつか張り付け合わせたような空虚な説明に、この事業の性格が表れています。
8年間にわたる県と市の共同事業である川の再生について、沈黙を押し通し、コンクリート遊歩道工事も3年前に決定して業者も選定し、発覚するや、後付けの理由と強弁で工事再開としました。
納得できる理由は何もありません。リーダーの姿勢が問われるのではないか、市政に横たわる大きな根本的問題があるのではないか、そう感じます。
市長は、私たちの目からは、明らかに事業趣旨が破綻しているのに、12月議会で「速やかな完成に努める」としました。
県議(市部会常任メンバー)は、コンクリート遊歩道が提案された市部会第2回に出席し「すばらしい整備内容」としました。
市政を司る2人のリーダーからは、日高市の最も貴重で市民に支持されている財産を破壊してまでコンクリート遊歩道を作ろうとする明確な理由が見えてきません。
期せずして、NHKが看板番組である「さわやか自然百景」で高麗川を取り上げます(1月31日)。予告には「清流と里山の美しい景観と多彩な生き物の躍動」とあります。正に、私たちが体験し感じる高麗川です。
知事も、
県議も、
市長も、
ぜひこの番組を見ていただきたい。
この高麗川コンクリート遊歩道は、河川行政、環境行政、まちづくり等、どの面から見ても、歴史に残る破壊になるのではないでしょうか。1月31日、既に重機のうなりが川辺に響いているかもしれません。今からでも遅くはないと言いたい。いったん中止して、県民、市民の大多数が納得できる川の再生としたら、と切に思います。
このブログが多くの市民に読まれ、県政、市政を理解する一助になればいい、と願っています。
「高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」について
「高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」について
高麗川の自然護岸や河川敷に2メートル幅のコンクリート遊歩道を建設する埼玉県と日高市の「川のまるごと再生」共同事業に対し、遊歩道建設反対と計画見直しを求めて平成27年11月に結成された団体。
コンクリート遊歩道に反対や白紙撤回を求める声が、議会からも市民からも上がらない状況に危機感を持ち、この問題が発覚して以来、大きな関心を持ってきた有志によって結成されました。
情報公開も説明も行われず市民が知らないムダな公共事業が進められることは、公共と市民生活に大きな損失をもたらすと考え、平成27年12月3日に、埼玉県知事、埼玉県県土整備部水辺再生課、埼玉県飯能県土整備事務所、日高市長に建設中止と計画再考を求める要望書を提出しました。
代表 横山秀男
連絡先:日高市武蔵台1-11-1
電話:090-8486-2524 FAX:042-982-0369
私たちの考え方
私たちの考え方
要望とその理由については要望書で詳しく述べましたが、なぜコンクリート遊歩道に反対し計画再考を求めるのか、私たちの考えについて全体的に述べておきます。
1.どういう事業かについて
最初に、この事業を私たちなりに簡単に定義しておきます。「川の再生」事業は県の事業とされますが、そうではありません。確かに構造物等のハードの予算には、県の責任の下、県債を充てるので県の事業であり、県は「市町村の協力を仰ぐ」としています。
しかし実質は協力ではなく、完全な共同事業です。例えば日高市の場合、「川のまるごと再生」の名目で平成26年度一般会計からの実予算約3000万円、平成27年度予算で約2000万円の予算が取られており、この実予算以外に担当する職員がいます(人件費)。川の再生事業が、県が行う部分と市が行う部分に分かれて採択されているといっても実態は、一体化した共同事業です。
このように“完全”共同事業であるので、双方が入り組んで事業の決定・推進過程に関与し、いろいろな経路が組み合わされて複雑になっています。この過程で責任が各部分に拡散ないし転がされて(ロンダリング)、曖昧・不透明になる可能性があると見ることができます。
実際、市は「この事業は県の事業、県の予算だから……」と言い、あるいは「工事は県土整備事務所の方針で……」とし、県は「この事業の提案は日高市さんなので……」「工事は、日高市が地元対策等どういう方針を出すかにかかっているので……」という発言がされています。また要望書等を県に提出に行った場合、「担当は日高市になっているので」として受け取らず、日高市に行くよう指示された例もあるようです。
「県と市町村連携事業である川の再生事業(「水辺再生100プラン」「川のまるごと再生」の2期8年に亘る事業)には、このような責任が曖昧・不確かになる性格があり、一度決定されたら止められず、ばく進しかない特性があることを、まず念頭に置く必用があります。
2.「川のにぎわい」の基本的な考え方について
県は「川の国埼玉 川の再生基本方針」の中の「基本方向」で次のように述べています。
「県は、地域資源を有効に活用し、個性ある取組を実践しようとする地域(地域住民、NPO、企業、市町村等、以下「地域」という)と連携・協働し、「清流の復活」、「安らぎと賑わいの空間創出」の2本柱により川の再生の実現を図るものである」。
それのイメージ図が左の図です。市町村が提案した事業の採択は、この二つのいずれかで説明できるかどうかがカギとなる重要な選択基準です。
高麗川が川の再生事業の対象に採択されたのは、日高市が立案したコンクリート遊歩道が「川にやすらぎとにぎわい創出」という県の基本方針に沿うとされたからです。
私たちは、ここに、高麗川への方針適用の基本的誤りがあると見ます。川の自然に対する根本的な理解を欠いており、高麗川上流という特有の条件への配慮も見られないからです。
里山から里地の森林を経て川の自然護岸に続き、そして河川敷や湧水から河道、水中へと続く高麗川の自然条件。この連続性が維持されている自然があることが、高麗川の最大の価値です。
多様な生き物が生存の条件に合った住み場所を選んで暮らし、未知の微生物が人知れず棲息しています。これこそ川が育む自然のにぎわいです。人間もこのにぎわいを構成する一員とみることが、いま求められる考え方ではないでしょうか。
この多様な連続性を持つ自然のにぎわいを断絶・破壊するコンクリート遊歩道を建設することに、どんな意義があるのか。この自然豊かな高麗川の谷筋、谷底に人間のにぎわいを創り出すとは、傲慢不遜な行為であり、ムダな土木公共工事を創出する口実としか思えません。
私たちは、自然の一員であることを実感できる条件整備を伴うのであれば、川の再生事業には意義があると考え、コンクリート遊歩道に拠らない9項目の具体的試案を提案しました(メニュー参照)。
3.多自然川づくりについて
川の再生事業を位置付ける「川の再生の意義、目標」の中で、県は、「国土交通省では平成18年10月「多自然川づくり」基本方針を定め、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史、文化との調和にも配慮した河川管理を行なうこととしている。また、農業用水などに関しても同様の方針が示されている」と述べています。
「多自然川づくり基本方針」は国が長い時間をかけて専門家の知恵を結集して、平成18年に策定した方針で、文面として説得性あるものです。国交省管轄の全国の河川工事では、まずこの多自然川づくりを前提とする方針が整いつつあります。しかし問題は、実際の施策の中でどう実行されるかです。
私たちの見る所、県と日高市の共同事業である「川のまるごと再生 高麗川プロジェクト」には、国の基本方針を反映させようとする姿勢が十分ではありません。高麗川は、国交省管轄では無く埼玉県知事の管轄で、無用な自然破壊を伴う構造物の建設や配慮されない工事を行うことは、多自然川づくりの基本方針が県や市レベルに行き渡ってないことを示しています。
そもそも、日高市の高麗川のような自然河川に、コンクリート遊歩道を建設すること自体が、国の「多自然川づくり基本方針」に反しているのではないでしょうか。国の基本方針には、縦断・横断工作物については、特に注意を求めていますが、コンクリート遊歩道はこの範疇ではない、というのでしょうか。
因みに、国の基本方針で、直接的に高麗川に関係する文面を以下に取り出してみました。
(1) 川づくりにあたっては、単に自然のものや自然に近いものを多く寄せ集めるのでは なく、可能な限り自然の特性やメカニズムを活用すること。
(2) 関係者間で4に示す留意すべき事項を確認すること。
(3) 川づくり全体の水準の向上のため、以下の方向性で取り組むこと。
ア 河川全体の自然の営みを視野に入れた川づくりとすること。
イ 生物の生息・生育・繁殖環境を保全・創出することはもちろんのこと、地域の暮らしや歴史・文化と結びついた川づくりとすること。
(4) 護岸については、水理特性、背後地の地形・地質、土地利用などを十分踏まえた上 で、必要最小限の設置区間とし、生物の生息・生育・繁殖環境と多様な河川景観の保 全・創出に配慮した適切な工法とすること。
(8) 瀬と淵、ワンド、河畔林等の現存する良好な環境資源をできるだけ保全すること。
このように川づくりは、明らかに自然と環境重視の考え方にシフトしているのですが、高麗川のコンクリート遊歩道建設はこの趨勢に逆行する事業で、県民、市民の公共や市民生活に貢献するものではありません。将来世代に引き渡すべき財産を破壊・毀損する行為と言わざるをえません。
<資料>
4.説明と情報開示がほとんど行われないことについて
以上の2点からしても、県と市の共同事業である「高麗川 川のまるごと再生プロジェクト」は、民意に反していると言えるのですが、行政のあり方についても、問題が多々あります。
まず市民への説明が無く情報が公開されないこと。この点に関しては、議会他で多くのことが指摘されていますが、市民と行政の接点としての問題の出発点です。
県の川の再生事業は2期8年にわたり、今年度を最終年とする市町村との共同事業です。県事業と言っても、市や関係機関が企画・立案し、実施推進にマンパワー・予算面から直接に関与する共同事業です。この8年間、日高市は川の再生事業について公式に一切説明してきませんでした。今回のコンクリート遊歩道については、流域の住民も市民もほとんど知らない状況です。このように情報公開と説明責任が徹底的に欠如した事業を遮二無二に進めようとしています。一体なぜなのでしょうか。
5.民意を反映していないことについて
川の再生事業による横手の遊歩道建設について、議会では「地域活性化」「観光場所として喜ばれている」とのことですが、実態は逆です。しかも建設には反対の意見も多かったと言われています。巾着田魚道についても同様、事業化の過程が不明です。県と市による2期8年にわたる大規模事業が、前記のように情報公開がない中、市民の意見を問わないまま実施されてきました。
重ね重ねの最後の事業がコンクリート遊歩道です。市部会で市民による検討が行われたとされますが、県会議員を含む構成員33名のうち県と市の職員と関係団体のメンバーで20名以上、活動実績が豊富な自立的ボランテア団体は入っておらず実質的には官主導の追認組織です。
アンケートは行なわれましたが、中心事業のコンクリート遊歩道を問うものではありませんでした。それでも、手を加えない、人工物を作らない、自然の景観を楽しみたい、という意見が多数となっています。
高麗川清流の維持を謳う市民憲章が広く市民に認知されています。その下での総合計画基本方針には、自然環境豊かな生活を求める市民意識が反映されています。コンクリート遊歩道は、これら日高市を形作る土台を壊すものではないでしょうか。従って、市が言う市民の共感・支持があるという見解には、私たちは到底、納得できないのです。
6.ムダな公共事業であることについて
川の再生事業はソフト事業の趣がありますが、実際は土木公共事業です。事業を起こすに当たっては、上で述べた民意の合意の下に、予算、目的、効果を明確にしなければなりません。しかし、コンクリート遊歩道設置にはこれら一連の検討が不十分、というより不在で、土木公共工事が自己目的化されているのではないかの印象があります。
施策効果・目的に明確な位置づけがなく、後追いで様々な理由が付与されていますが、一貫性がありません。当初3000万円が3億円にふくれあがった予算拡大を理由づけるため、施策目標が途中で変更されました。“たくさんの魚影を眺めることができる高麗川とのふれあい”というコンクリート遊歩道の整備テーマは、余りにも取って付けたかのような理由付けです。
このような理由でコンクリート遊歩道建設に税金が投入され、未来に残すべき宝が破壊されることは、県民・市民の生活と公共全体に莫大な損失を与えることです。工事に県債が充当され、事業推進に市一般会計予算が費消される根拠は乏しいと、私たちは強く主張します。
上田清司 埼玉県知事への要望書
埼玉県知事 上田清司様
高麗川まるごと再生事業によるコンクリート遊歩道設置中止と計画再考の要望
2015(平成27)年8月、突如、「川のまるごと再生プロジェクト」事業による高麗川河川敷へのコンクリート遊歩道工事着工という事態が発生しました。これは、工事隣接住民、流域住民すら全く知らされていない日高市民に寝耳に水の驚くべきことでした。この3カ月間にようやく県事業の計画の経過と全貌及び問題点が明らかになりました。私たちは、明らかになったこの事業全体を真摯に検討した結果、以下の3点を要望し、その理由を述べます。
【要望1】
私たちは、高麗川河川敷にコンクリート遊歩道を建設することに反対すると共に、「川のまるごと再生プロジェクト」事業による整備計画を1年間延期し、市民全体の議論と検討に基づいた“真の川の再生”を求めます。
【理由】
日高市はふれあい清流文化都市を市民憲章で宣言し、総合計画基本構想で「水と緑の豊かな自然環境の保全」「貴重な歴史資源、景観の保全」を謳っています。
川のまるごと再生アンケートについて、市は「遊歩道事業の賛成を得た」としていますが、川を賑わいの場とする意見は極めて少なく、川に人工物を作らず自然の景観を楽しみたい、とする意見が多数を占めています。本アンケートのみならず総合計画等の市民意識調査でも、水と緑豊かな景観と環境の中での生活を望む声は常に最上位を占め、先に触れた市民憲章と総合計画の基本方針が、確固たる市民意識によって支持されていることは明らかです。
この基本理念からすれば、日高市の高麗川河川敷に2メートル幅のコンクリート遊歩道を設置して「川にやすらぎとにぎわい空間を創出する」という県の施策方針は市民感覚から程遠い。コンクリート遊歩道に市民・観光客を誘導するという事業趣旨は、根拠が薄く施策効果も曖昧と言わざるを得ません。
日高市の高麗川には、創出するまでもなく、瀬音とみどりの貴重な空間があります。市民の意識やこの川の特性を踏まえず、一律の方針を適用することは、地域・流域の市民を無視することにつながり、市町村連携のあるべき姿ではないと考えます。
日高市民の意識と高麗川の特性を活かす“真の川の再生”をすべきです。知事は数年前、巾着田に来られました。再び来ていただいて、コンクリート遊歩道区間にある橋の上に立っていただければ日高市民の心をご理解いただけるのではないかと思います。発注済区間は工事に着手するという姿勢を県土整備事務所も日高市も変えていませんが、ここは再考していただきたいのです。事業を1年間繰り延べとし、流域住民、市民の声を反映させた「川の再生」を要望致します。
知事が公約で示された10年先を見据えた観光発信と、50年先の未来の世代に高麗川を素晴らしい姿で引き渡したいという私たちの思いは同じではないでしょうか。
【要望2】
事業を1年間の繰り延べとしていただき、その上で県の「川の再生」取り組み方針において強調されている「住民と行政の協働体制づくり」「地域住民の参加」をゼロベースから構築し、「広く政策提言を募る」という知事の新方針の下、流域住民、市民の合意を得た事業とするよう指示をしていただきたい。
【理由】
工事が明らかになったことで各地域の問題が噴出・顕在化し、市は個別に対応・沈静化することで、何が何でも工事を進めようとしていると見受けられます。県と市両者が、市民参加と協働を怠ってきた結果であり、行政のあり方として問題ではないでしょうか。
2期8年にわたる「川の再生」事業について、日高市はこの間、一度も市民に広報で説明したことは無く、ホームページでも全く触れていません。その結果、冒頭に述べたように、市民のほとんどが知らない県の工事が突如現れました。これほどまでに情報公開、説明責任を果たしていない事業を進めることは、県民・市民との協働姿勢と県の「川の再生の取組み」実施体制に問題があるのではないでしょうか。検討を行ったとされる市部会も、構成員32名のうち役所職員とその関係者で20名を占め、長年活動しているボランティア団体は入っていません。
さらに、コンクリート遊歩道で途切れ途切れに坂戸市までつなぐ事業計画は、県が公開で意見聴取し選定した当初案の後に付け加えられた案で、実施体制に位置づけられた「川の再生懇談会」の議を経ていない不透明さを伴うものです。
その結果、予算規模は何と、3000万円が3億円にも膨れ上がりました。「やすらぎと賑わいの空間創出」という再生方針に無理に当てはめようとする事業は、税金のむだ遣いであり、将来の納税者が負担する県債発行にふさわしいものか疑問です。
予算規模の増大化は、前期の「水辺再生100プラン」においても指摘されています。「本事業では、事業規模があらかじめ想定されていなかったが総事業費は結果として多額になっている。今後は、事業費や効果について十分配慮しながら取り組み、県民に分かりやすく説明する必要がある」(平成23年度包括外部監査の結果の概要)。この監査意見がどう活かされたか、情報公開及び市民参加の不足や上記の決定過程に鑑み、住民合意への新たな取組みを求めます。
知事は、先の選挙公約の実績において、川の再生によってアユが棲める水質向上が増加したと強調されています。知事の言われる「川の国埼玉の実現」のために、是非、流域住民、市民の声に耳を傾けることを希望致します。