高麗川清流

高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会

私たちの考え方

私たちの考え方

 要望とその理由については要望書で詳しく述べましたが、なぜコンクリート遊歩道に反対し計画再考を求めるのか、私たちの考えについて全体的に述べておきます。

1.どういう事業かについて

 最初に、この事業を私たちなりに簡単に定義しておきます。「川の再生」事業は県の事業とされますが、そうではありません。確かに構造物等のハードの予算には、県の責任の下、県債を充てるので県の事業であり、県は「市町村の協力を仰ぐ」としています。
 しかし実質は協力ではなく、完全な共同事業です。例えば日高市の場合、「川のまるごと再生」の名目で平成26年度一般会計からの実予算約3000万円、平成27年度予算で約2000万円の予算が取られており、この実予算以外に担当する職員がいます(人件費)。川の再生事業が、県が行う部分と市が行う部分に分かれて採択されているといっても実態は、一体化した共同事業です。
 このように“完全”共同事業であるので、双方が入り組んで事業の決定・推進過程に関与し、いろいろな経路が組み合わされて複雑になっています。この過程で責任が各部分に拡散ないし転がされて(ロンダリング)、曖昧・不透明になる可能性があると見ることができます。
 実際、市は「この事業は県の事業、県の予算だから……」と言い、あるいは「工事は県土整備事務所の方針で……」とし、県は「この事業の提案は日高市さんなので……」「工事は、日高市が地元対策等どういう方針を出すかにかかっているので……」という発言がされています。また要望書等を県に提出に行った場合、「担当は日高市になっているので」として受け取らず、日高市に行くよう指示された例もあるようです。
 「県と市町村連携事業である川の再生事業(「水辺再生100プラン」「川のまるごと再生」の2期8年に亘る事業)には、このような責任が曖昧・不確かになる性格があり、一度決定されたら止められず、ばく進しかない特性があることを、まず念頭に置く必用があります。

2.「川のにぎわい」の基本的な考え方について

県は「川の国埼玉 川の再生基本方針」の中の「基本方向」で次のように述べています。
川の国埼玉 川の再生基本方針
 「県は、地域資源を有効に活用し、個性ある取組を実践しようとする地域(地域住民、NPO、企業、市町村等、以下「地域」という)と連携・協働し、「清流の復活」、「安らぎと賑わいの空間創出」の2本柱により川の再生の実現を図るものである」。
 それのイメージ図が左の図です。市町村が提案した事業の採択は、この二つのいずれかで説明できるかどうかがカギとなる重要な選択基準です。
 高麗川が川の再生事業の対象に採択されたのは、日高市が立案したコンクリート遊歩道が「川にやすらぎとにぎわい創出」という県の基本方針に沿うとされたからです。
 私たちは、ここに、高麗川への方針適用の基本的誤りがあると見ます。川の自然に対する根本的な理解を欠いており、高麗川上流という特有の条件への配慮も見られないからです。
 里山から里地の森林を経て川の自然護岸に続き、そして河川敷や湧水から河道、水中へと続く高麗川の自然条件。この連続性が維持されている自然があることが、高麗川の最大の価値です。
 多様な生き物が生存の条件に合った住み場所を選んで暮らし、未知の微生物が人知れず棲息しています。これこそ川が育む自然のにぎわいです。人間もこのにぎわいを構成する一員とみることが、いま求められる考え方ではないでしょうか。
 この多様な連続性を持つ自然のにぎわいを断絶・破壊するコンクリート遊歩道を建設することに、どんな意義があるのか。この自然豊かな高麗川の谷筋、谷底に人間のにぎわいを創り出すとは、傲慢不遜な行為であり、ムダな土木公共工事を創出する口実としか思えません。
 私たちは、自然の一員であることを実感できる条件整備を伴うのであれば、川の再生事業には意義があると考え、コンクリート遊歩道に拠らない9項目の具体的試案を提案しました(メニュー参照)。

3.多自然川づくりについて

 川の再生事業を位置付ける「川の再生の意義、目標」の中で、県は、「国土交通省では平成18年10月「多自然川づくり」基本方針を定め、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史、文化との調和にも配慮した河川管理を行なうこととしている。また、農業用水などに関しても同様の方針が示されている」と述べています。
 「多自然川づくり基本方針」は国が長い時間をかけて専門家の知恵を結集して、平成18年に策定した方針で、文面として説得性あるものです。国交省管轄の全国の河川工事では、まずこの多自然川づくりを前提とする方針が整いつつあります。しかし問題は、実際の施策の中でどう実行されるかです。
 私たちの見る所、県と日高市の共同事業である「川のまるごと再生 高麗川プロジェクト」には、国の基本方針を反映させようとする姿勢が十分ではありません。高麗川は、国交省管轄では無く埼玉県知事の管轄で、無用な自然破壊を伴う構造物の建設や配慮されない工事を行うことは、多自然川づくりの基本方針が県や市レベルに行き渡ってないことを示しています。
そもそも、日高市高麗川のような自然河川に、コンクリート遊歩道を建設すること自体が、国の「多自然川づくり基本方針」に反しているのではないでしょうか。国の基本方針には、縦断・横断工作物については、特に注意を求めていますが、コンクリート遊歩道はこの範疇ではない、というのでしょうか。
 因みに、国の基本方針で、直接的に高麗川に関係する文面を以下に取り出してみました。
 (1) 川づくりにあたっては、単に自然のものや自然に近いものを多く寄せ集めるのでは なく、可能な限り自然の特性やメカニズムを活用すること。
 (2) 関係者間で4に示す留意すべき事項を確認すること。
 (3) 川づくり全体の水準の向上のため、以下の方向性で取り組むこと。
  ア 河川全体の自然の営みを視野に入れた川づくりとすること。
  イ 生物の生息・生育・繁殖環境を保全・創出することはもちろんのこと、地域の暮らしや歴史・文化と結びついた川づくりとすること。
 (4) 護岸については、水理特性、背後地の地形・地質、土地利用などを十分踏まえた上 で、必要最小限の設置区間とし、生物の生息・生育・繁殖環境と多様な河川景観の保 全・創出に配慮した適切な工法とすること。
 (8) 瀬と淵、ワンド、河畔林等の現存する良好な環境資源をできるだけ保全すること。
 このように川づくりは、明らかに自然と環境重視の考え方にシフトしているのですが、高麗川のコンクリート遊歩道建設はこの趨勢に逆行する事業で、県民、市民の公共や市民生活に貢献するものではありません。将来世代に引き渡すべき財産を破壊・毀損する行為と言わざるをえません。

<資料>

4.説明と情報開示がほとんど行われないことについて

 以上の2点からしても、県と市の共同事業である「高麗川 川のまるごと再生プロジェクト」は、民意に反していると言えるのですが、行政のあり方についても、問題が多々あります。
 まず市民への説明が無く情報が公開されないこと。この点に関しては、議会他で多くのことが指摘されていますが、市民と行政の接点としての問題の出発点です。
 県の川の再生事業は2期8年にわたり、今年度を最終年とする市町村との共同事業です。県事業と言っても、市や関係機関が企画・立案し、実施推進にマンパワー・予算面から直接に関与する共同事業です。この8年間、日高市は川の再生事業について公式に一切説明してきませんでした。今回のコンクリート遊歩道については、流域の住民も市民もほとんど知らない状況です。このように情報公開と説明責任が徹底的に欠如した事業を遮二無二に進めようとしています。一体なぜなのでしょうか。

5.民意を反映していないことについて

 川の再生事業による横手の遊歩道建設について、議会では「地域活性化」「観光場所として喜ばれている」とのことですが、実態は逆です。しかも建設には反対の意見も多かったと言われています。巾着田魚道についても同様、事業化の過程が不明です。県と市による2期8年にわたる大規模事業が、前記のように情報公開がない中、市民の意見を問わないまま実施されてきました。
 重ね重ねの最後の事業がコンクリート遊歩道です。市部会で市民による検討が行われたとされますが、県会議員を含む構成員33名のうち県と市の職員と関係団体のメンバーで20名以上、活動実績が豊富な自立的ボランテア団体は入っておらず実質的には官主導の追認組織です。
 アンケートは行なわれましたが、中心事業のコンクリート遊歩道を問うものではありませんでした。それでも、手を加えない、人工物を作らない、自然の景観を楽しみたい、という意見が多数となっています。
 高麗川清流の維持を謳う市民憲章が広く市民に認知されています。その下での総合計画基本方針には、自然環境豊かな生活を求める市民意識が反映されています。コンクリート遊歩道は、これら日高市を形作る土台を壊すものではないでしょうか。従って、市が言う市民の共感・支持があるという見解には、私たちは到底、納得できないのです。

6.ムダな公共事業であることについて

 川の再生事業はソフト事業の趣がありますが、実際は土木公共事業です。事業を起こすに当たっては、上で述べた民意の合意の下に、予算、目的、効果を明確にしなければなりません。しかし、コンクリート遊歩道設置にはこれら一連の検討が不十分、というより不在で、土木公共工事が自己目的化されているのではないかの印象があります。
 施策効果・目的に明確な位置づけがなく、後追いで様々な理由が付与されていますが、一貫性がありません。当初3000万円が3億円にふくれあがった予算拡大を理由づけるため、施策目標が途中で変更されました。“たくさんの魚影を眺めることができる高麗川とのふれあい”というコンクリート遊歩道の整備テーマは、余りにも取って付けたかのような理由付けです。
 このような理由でコンクリート遊歩道建設に税金が投入され、未来に残すべき宝が破壊されることは、県民・市民の生活と公共全体に莫大な損失を与えることです。工事に県債が充当され、事業推進に市一般会計予算が費消される根拠は乏しいと、私たちは強く主張します。