上田清司 埼玉県知事への要望書
埼玉県知事 上田清司様
高麗川まるごと再生事業によるコンクリート遊歩道設置中止と計画再考の要望
2015(平成27)年8月、突如、「川のまるごと再生プロジェクト」事業による高麗川河川敷へのコンクリート遊歩道工事着工という事態が発生しました。これは、工事隣接住民、流域住民すら全く知らされていない日高市民に寝耳に水の驚くべきことでした。この3カ月間にようやく県事業の計画の経過と全貌及び問題点が明らかになりました。私たちは、明らかになったこの事業全体を真摯に検討した結果、以下の3点を要望し、その理由を述べます。
【要望1】
私たちは、高麗川河川敷にコンクリート遊歩道を建設することに反対すると共に、「川のまるごと再生プロジェクト」事業による整備計画を1年間延期し、市民全体の議論と検討に基づいた“真の川の再生”を求めます。
【理由】
日高市はふれあい清流文化都市を市民憲章で宣言し、総合計画基本構想で「水と緑の豊かな自然環境の保全」「貴重な歴史資源、景観の保全」を謳っています。
川のまるごと再生アンケートについて、市は「遊歩道事業の賛成を得た」としていますが、川を賑わいの場とする意見は極めて少なく、川に人工物を作らず自然の景観を楽しみたい、とする意見が多数を占めています。本アンケートのみならず総合計画等の市民意識調査でも、水と緑豊かな景観と環境の中での生活を望む声は常に最上位を占め、先に触れた市民憲章と総合計画の基本方針が、確固たる市民意識によって支持されていることは明らかです。
この基本理念からすれば、日高市の高麗川河川敷に2メートル幅のコンクリート遊歩道を設置して「川にやすらぎとにぎわい空間を創出する」という県の施策方針は市民感覚から程遠い。コンクリート遊歩道に市民・観光客を誘導するという事業趣旨は、根拠が薄く施策効果も曖昧と言わざるを得ません。
日高市の高麗川には、創出するまでもなく、瀬音とみどりの貴重な空間があります。市民の意識やこの川の特性を踏まえず、一律の方針を適用することは、地域・流域の市民を無視することにつながり、市町村連携のあるべき姿ではないと考えます。
日高市民の意識と高麗川の特性を活かす“真の川の再生”をすべきです。知事は数年前、巾着田に来られました。再び来ていただいて、コンクリート遊歩道区間にある橋の上に立っていただければ日高市民の心をご理解いただけるのではないかと思います。発注済区間は工事に着手するという姿勢を県土整備事務所も日高市も変えていませんが、ここは再考していただきたいのです。事業を1年間繰り延べとし、流域住民、市民の声を反映させた「川の再生」を要望致します。
知事が公約で示された10年先を見据えた観光発信と、50年先の未来の世代に高麗川を素晴らしい姿で引き渡したいという私たちの思いは同じではないでしょうか。
【要望2】
事業を1年間の繰り延べとしていただき、その上で県の「川の再生」取り組み方針において強調されている「住民と行政の協働体制づくり」「地域住民の参加」をゼロベースから構築し、「広く政策提言を募る」という知事の新方針の下、流域住民、市民の合意を得た事業とするよう指示をしていただきたい。
【理由】
工事が明らかになったことで各地域の問題が噴出・顕在化し、市は個別に対応・沈静化することで、何が何でも工事を進めようとしていると見受けられます。県と市両者が、市民参加と協働を怠ってきた結果であり、行政のあり方として問題ではないでしょうか。
2期8年にわたる「川の再生」事業について、日高市はこの間、一度も市民に広報で説明したことは無く、ホームページでも全く触れていません。その結果、冒頭に述べたように、市民のほとんどが知らない県の工事が突如現れました。これほどまでに情報公開、説明責任を果たしていない事業を進めることは、県民・市民との協働姿勢と県の「川の再生の取組み」実施体制に問題があるのではないでしょうか。検討を行ったとされる市部会も、構成員32名のうち役所職員とその関係者で20名を占め、長年活動しているボランティア団体は入っていません。
さらに、コンクリート遊歩道で途切れ途切れに坂戸市までつなぐ事業計画は、県が公開で意見聴取し選定した当初案の後に付け加えられた案で、実施体制に位置づけられた「川の再生懇談会」の議を経ていない不透明さを伴うものです。
その結果、予算規模は何と、3000万円が3億円にも膨れ上がりました。「やすらぎと賑わいの空間創出」という再生方針に無理に当てはめようとする事業は、税金のむだ遣いであり、将来の納税者が負担する県債発行にふさわしいものか疑問です。
予算規模の増大化は、前期の「水辺再生100プラン」においても指摘されています。「本事業では、事業規模があらかじめ想定されていなかったが総事業費は結果として多額になっている。今後は、事業費や効果について十分配慮しながら取り組み、県民に分かりやすく説明する必要がある」(平成23年度包括外部監査の結果の概要)。この監査意見がどう活かされたか、情報公開及び市民参加の不足や上記の決定過程に鑑み、住民合意への新たな取組みを求めます。
知事は、先の選挙公約の実績において、川の再生によってアユが棲める水質向上が増加したと強調されています。知事の言われる「川の国埼玉の実現」のために、是非、流域住民、市民の声に耳を傾けることを希望致します。