読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

高麗川清流

高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会

「高麗川のまるごと再生プロジェクト」事業に思う――検証・評価無きまま、住民無視と破壊は横手から下流域へと拡大

日高 流水 

川の再生事業、現在までの経緯

 埼玉県が県土に占める河川面積の割合において全国一(3.9%)であることなどに因んで、上田清司埼玉県知事が「川の再生」をスローガンにして事業を推進してきた。第1期目の事業である「水辺再生」100プラン」が平成20年度からスタート、これを継承する形で第2期目の事業である「川のまるごと再生プロジェクト」が平成24年度から開始され、現在、計画の最終年度となっている。
 日高市では、平成21年度の県の「水辺再生100プラン」事業において、市提案による巾着田周辺の河川の整備と、住民提案による(住民無視の形式的なものであったことは後で詳述)横手渓谷の川辺の遊歩道設置との二つの申請が採択され、それぞれ県の費用によって工事が完了したことは、周知のことである。
 そして現在、県の「川のまるごと再生プロジェクト」に自治体提案として日高市が「高麗川のまるごと再生プロジェクト」を申請し、これが採択され、高麗川河川敷にコンクリート遊歩道を建設する最終工事が着工されたところである。

突然の工事に驚愕、心ある市民が反対の声

 この「高麗川まるごと再生プロジェクト」とは、①天神橋~お蔵淵間、②高岡橋周辺、③獅子岩橋~新井橋間、④富士橋~高麗川橋、⑤高麗川橋~坂戸市境、に遊歩道を設置するという事業であり、その遊歩道は幅員2メートル、厚さ30センチのコンクリート造りのものである。
 そして、この事業の概要を一部の日高市民が知る事になったのは工事が着工される寸前の平成27年8月のことだった。これによって、心ある市民は驚愕の念をもって、この事業に対することとなり、特に「リンクス高麗川」「埼玉県河川環境団体連絡協議会」「高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」「清流青空保育会 ぽのぽの」の市内外の四団体から、この事業に対する反対、再考、修正等の要望が提起されるところとなった。
 そこでいま、この四団体からの要望を見るに、それぞれの要望に共通しているとみられる点を集約すれば、おおよそ以下のようになるかと思われる。
(1) 市民置き去り計画で事業が進展してきたことに対する批判。
(2) コンクリート造りの遊歩道には反対であること。踏みあと程度の多自然工法の提案。
(3) 現状の自然環境としての高麗川の川辺に、人工的に遊歩道を設置して、その環境を変える必要があるのかの問題。
(4) コンクリート造りの遊歩道の造成は、高麗川の魚類やカワセミなどの鳥類の生息にとって、不適な環境を作ることになるのではないかの問題。
(5) 橋からの景観にマッチした整備、親水空間の改善のための自然護岸の整備に変更すべきであるとの提案。
これらの諸点は、今回の事業に対する日高市民一般の共通にいだく問題点であると思われる。
高麗川コンクリート遊歩道に反対し計画再考を求める会」は平成27年12月3日、上田知事に「高麗川まるごと再生事業によるコンクリート遊歩道設置中止と計画再考の要望」を、飯能県土整備事務所に「提言「コンクリート遊歩道を必要としない川の再生」」を、そして谷ケ崎日高市長に「高麗川コンクリート遊歩道設置の中止と計画再考の要望」を提出している。
これらの要望の中で同会は、高麗川まるごと再生プロジェクトが市の総合計画に反する事業であり、計画自体が趣旨も効果設定も無きに等しく、県民・市民の税金のむだずかいであることを指摘、公共事業のあり方として根本的疑問を投げかけている。
 以上のような四団体からの要望が提起されたことや、その要望のそれぞれに対する件や市の返答が如何様であったのか、一般日高市民は知る術さえなく今日にいたっているのが実情である。

市部会を絶対視、民意吸収の努力を放棄

 では、一体いかなる事由により、このような状態に陥ってしまったのか、少々考えてみたい。ここでまず注目されるのが「高麗川まるごと再生プロジェクト」事業の内容の検討から決定にいたるまでの権限を委嘱されているという「高麗川まるごと再生プロジェクト日高市部会」の存在である。
この市部会は、第1回(平成25年5月)開催に先立ち、市が要綱を定めて設置されたものである(資料:市部会設置要綱参照)。
市部会のリーダー(主宰者)を日高市市民生活部長と定め、市内の地域住民代表としての関係区長等、地域活動団体および広域地域活動団体としての各団体の代表者、関連地域の学校関係者(小学校長)、県会議員(交通安全推進協議会顧問)、埼玉県および日高市の関係各課の担当者などで構成されている。そして「リーダーは、必要があると認めるときは、別表に掲げる構成員以外のものの出席を求めることが出来る」としている。
平成27年12月11日(金)開催の第8回日高市部会において、上記四団体からの要望も議案として審議対象とされたことを含めて、当プロジェクト案の検討を終了し、一部修正のうえ、コンクリート遊歩道を中心とする計画を原案通り決定として、平成28年1月に工事着工にいたったという状況である。
 市側の説明によれば、平成23年に高麗川全域を調査し、遊歩道設置可能個所を3年間かけて検討し、場所を選定したという。その後、平成25年に上記の「高麗川まるごと再生プロジェクト日高市部会」を設置し、以降の検討は、この部会に委せたということである。
そして、住民置き去りの批判に対しては、第8回日高市部会での市側の答弁として、「日高市部会では市民の意見を吸い上げてきた。地元代表である区長やボランテイア団体、各分野を専門とする行政機関の意見も聞いている。私は住民置き去りとは思っていない」(第8回日高市部会議事録、議事要旨3頁)と述べているように、明らかに住民置き去りを否定している。
 ところで、新堀、野々宮、北平沢、山根、川端などの区長がメンバーでなかった第2回市部会において、突如、整備テーマが変更となり、コンクリート遊歩道が提案された。
そして第3回において、魚道整備案と前回において突然、産業振興課から提案されたコンクリート遊歩道案が承認されてしまった。地元代表である区長の発言は参加の当初から極めて制約されていて、地元住民の要望を区長を通して実現することは、たいへん困難な状況であったことが推測される。
 また、前記の日高市部会における市側の答弁として、「通常、市民参加の手段として公募という方法もあるが、今回は市だけの事業ではないのでそうしなかった。今回はこの形式で進んできたので受け入れない(同上議事録、議事要旨4頁)とある。
ここで、「この形式」というのは、平成27年8月1日(土)2日(日)に開催された平沢公会堂と栗坪公会堂における地区説明会において、情報公開の遅れや未公開のままでの事業推進に対する地区住民の批判に対して、「市部会という手法」で進めてきたと繰り返し返答していること(同上議事録、資料2)に相当すると見られる。
ここには、日高市部会という手法や形式を絶対化し、日高市部会の存在ゆえに民意吸収の努力を放棄しながらその不当さに気づくことのない市側の姿勢と、県のプロジェクト事業の一環としての日高市事業ではあるが、申請主体の日高市の主体性の全く欠如した姿勢とが露呈している。
日高市部会そのものは、今回の事業の検討・推進のためには重要な機関であることは申すまでもないが、日高市においては、この機関が民意吸収を大きく阻害する存在に化してしまったと言わざるを得ない。まことに残念なことである。

3つの主要問題

 以上、「高麗川まるごと再生プロジェクト」事業に関する諸問題について、その大方の状況について述べたが、ここには、日高市の行政上の諸問題が露呈されているように思われる。
そこで、そのことも考慮しつつ、今回の事業が惹起した、主要と思われる問題三点について私見を述べてみたい。その三点とは以下の通りである。
(1) 今回の事業が民意無視のまま推進されたこと
(2) 当初からコンクリート造りの遊歩道として計画・推進されたこと
(3) 「高麗川の再生」という根本問題に対する論議の欠如の問題

横手遊歩道に反対多く、区は関与せずを決議

 第一点は、今回の事業の市民全体への情報公開が、すでに事業内容が決定、工事着工を目前にした時期であり、一般市民の意向の反映される余地の与えられなかったことである。市側の市民への情報開示の決定的な遅れに基づく問題であり。市側は「日高市部会」という手法で推進し、何ら瑕疵は無しと主張するが、結果的には民意無視の事業に陥ってしまったことである。
日高市における、こういう在り方については、先の横手渓谷の遊歩道造成時における区民への対応の仕方が想起される。県の「水辺再生100プラン」に日高市として横手渓谷に遊歩道を設置するという案が、地元区民に公表されたのは、県と市と関係有志とによる原案がすでに出来上がった段階で、この原案への区民の賛同を得るための説明会においてであった。しかし、横手区では反対論も多く、区としては関与せずと決議されたという。そこで、止むなく関係有志による県への申請となり、これが採択されたということで、地元区民の賛同を得た上での事業ではなかったという。そして、その結果の幅員2メートルのコンクリート造りの遊歩道の出現であったと聞く。ここには、地元住民の意向を無視してまでも事業を推し進める、ある力が強く働いている状況が看取されるが、今回の事業の推進の仕方も、こういうことと無縁であるとは思われない。

破壊の検証・評価なきまま再びコンクリート遊歩道工事

第二点は、今回の事業に関しては、日高市として、平成23年あたりから市内の河川調査を遊歩道設置計画に向けた活動として行ったということは、横手のコンクリート遊歩道の完成(平成24年2月)の前から、横手のコンクリート遊歩道を範として、市内に同様な遊歩道の設置を計画したこととみられることである。
多額な県の費用(実費、約1億円と聞く)を投入して、市としてはじめて行った「水辺再生」の事業が、「水辺再生」のために如何なる結果をもたらしているかについての適正な検証・評価もほとんど無いままに、今回の事業への計画に踏み込んでしまった市側の姿勢は、大いに批判されなければなるまい。もし、横手のコンクリート遊歩道に対する適正な検証や評価が実施されていたら、今回の事業に関する諸問題の噴出という事態は、ほぼ未然に防げたものと思われる。
横手のコンクリート遊歩道は、極端な増水時における防波堤の役割とか、高齢者の遊歩道歩行上の安全性の確保というような利点はあるものの、県の目指す「安らぎとにぎわいの創出」とか「清流の復活」とは、はるかに遠い現実があり、今回の事業に関して、上記の四団体が提起した諸問題のほとんどが、そのまま横手のコンクリート遊歩道の場合に当てはまる、と言える。
そして、そこに現れているのは、天然自然の破壊と川辺の人工護岸の設置とによる、県内最高の渓流美の喪失、河川の生物の生態系に及ぼす悪影響の増大、「清流」の概念に反する人工的河川の出現という現実である。
今回の川のまるごと再生事業の推進は、横手のコンクリート遊歩道によって現出したこれらの問題を、市内の他の河川に更に大きく拡散させるものとして決して容認すべきものではない。日高市は、横手のコンクリート遊歩道の設置という「前車の轍」を今回の事業で再び踏むという愚は何としても避けるべきである。

不可解な事業採択

第三点は、今回の事業の根本問題であり、かつ原点となるべきことである。
高麗川の再生とは何か」という視点に立った調査・協議の欠落のままに市が事業を計画し、県に申請し、県がこれを採択したことについては、申請主体の日高市はもとより、これを採択した県の対応も、まことに不可解である。
いずれにしても、現在進行中の「高麗川のまるごと再生プロジェクト」事業は、この事業が「高麗川の再生」に益する事業であるか否かの観点によって、早急に検証され、その結果に基づいて、事業そのものの今後を決める必要があると思われる。
「ふれあい清流文化都市」を市民憲章とし、市の総合計画基本構想で「水と緑の豊かな自然環境の保全」「貴重な歴史資源、景観の保全」を掲げる日高市にとって、横手渓谷にコンクリートの遊歩道を設置した上に、同様な遊歩道を市内の他の地域にも拡大するという今回の事業は、ここに掲げた市民憲章と基本構想とを市自らがこれを否定する結果を得ることになると思われる。

真の川の再生に向けて今こそ行動を

折しも、本年1月31日にNHK の「さわやか自然百景」の番組において高麗川が紹介され、高麗の清流と里山の美しい景観と、そこに生息する多彩な生き物の四季を通じての躍動が、「自然のまま」なるがゆえの実態として全国に放送された。
そこでは、何ら人為的、人工的なものの加えられるという予見は全く示されることなく、「自然のまま」の姿を今に保持する高麗川の価値が高く評価されていた。自然のままの高麗川の姿が、日高市の極めて貴重な自然財産であり、この宝を永く保全することが、その重大な責任であることを再認識させられた。
いったん壊した自然は、元にもどすことはできない。横手の遊歩道がその実例である。市内における自然破壊をこれ以上増やしてはならない。また、三億円もの県費の無駄づかいを傍観すべきではない。
言うまでもなく高麗川日高市民共有の貴重な自然財産であり、これに何らかの改変を加えることは、市民全体の問題であり、責任でもある。現在、すでに工事は着工となったが、今回の事業の推進を止め、速やかに工事を中止させ、今回の事業を全市民共通の問題とする認識の形成につとめながら、多くの市民の協議の上に立つ合意のもとに、高麗川の真の再生に即応した事業の実現に向かって、今こそ行動を起こすべきであると思う。
(平成28年2月3日)